対ハタチエイゴ訴訟勝訴のご報告

目次

対ハタチエイゴ訴訟勝訴のご報告

主文

  1. 被告(株式会社ハタチエイゴ、代表取締役 澤木陽太郎)は、原告(柴田)に対し、1000万円及びこれに対する令和3年2月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
  2. 訴訟費用は被告の負担とする。
  3. この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
判決文 主文

ご報告

柴田が知らない間に自分自身の取締役辞任届が作成され、また柴田が感知出来ない方法で、不適切な手続きで辞任の登記がされていた件に関する裁判で勝訴しました。

実際には開催されていない架空の株主総会議事録。柴田はこの日(2018年12月1日)、大分県別府市にいた。
実際には開催されていない架空の株主総会議事録。澤木陽太郎の個人印が押されている。
柴田が作成していない辞任届。登録されていない法人印が押されており、また筆跡も柴田本人のものとは異なる。

裁判では株式会社ハタチエイゴ(以下、「ハタチエイゴ」と言います。)に対して1,000万円の支払を求める訴訟(横浜地方裁判所令和3年(ワ)第610号 訴訟代理人 溝の口法律事務所 田畑淳 音喜多淳)について、令和6年1月17日、判決が出ました。

当方の主張が全面的に認められ、ハタチエイゴに対して、1,000万円の支払が命じられました。

補足すると、柴田は2019年10月に有印私文書偽造及び行使、公正証書原本不実記載で刑事告発していたハタチエイゴ社の代表取締役である澤木陽太郎に対する告発を取り下げることなどと引き換えに、ハタチエイゴ社と丸山要平氏が連帯して7,000万円を支払うことで合意しました。

この合意書では解決金の金額は7,000万円となっておりましたが、一部の解決金については訴訟提起時(2021年の年初時点)で履行期が到来していないことや、その時点でハタチエイゴ社に資産が残されていないにも関わらず高額な印紙代が無駄になることを考慮して、代理人とも協議の上解決金の一部である、1,000万円の一部請求にとどめております。

この裁判では、当方(柴田)が合意書に基づいて解決金の支払いを求めたことに対し、ハタチエイゴは当方が合意書に基づく債務の履行をしていないとして同時履行の抗弁権や契約の解除、相殺などを主張していました。

 しかし、被告側の主張は「被告が主張する債務不履行に基づく損害賠償請求権及び名誉棄損による損害賠償請求権は認められ」ない、「被告による無催告解除が有効であるとは認められない」(いずれも判決文)として、一切認められず、柴田の主張が全面的に認められる形でハタチエイゴ社に1,000万円の支払いが命じられました。

本件では、ハタチエイゴへ柴田への支払いが命じられましたが、ハタチエイゴは「令和2年3月16日以降、フィリピン法人サウスピークによる語学学校の経営は停止しており、それに伴い、被告による留学あっせん事業も停止した。被告の売上はなくなり、令和4年9月時点においても、被告の売上はゼロに近く、従業員は澤木一人であり、事業再開の見通しは厳しい」(判決文)とされており、実質的には事業も財産もない法人です。

未払いである6,700万円に関しては合意書で個人として連帯保証人となった丸山要平氏に対しても請求しておりました。

しかし丸山氏は、それまで丸山氏の代理人であった杉浦健二弁護士を解任し、フィリピンの住所では訴状を受け取らず逃げ回っています(もし丸山氏から送達先の連絡や代理人の指定があれば、柴田はすぐに丸山氏を訴えられます)。

提訴後も杉浦弁護士を通じて丸山からの警告メッセージが届くなど、丸山と杉浦弁護士の間で連絡がつく状況であったにもかかわらず、杉浦弁護士は丸山と無関係として訴状送達先についても一切協力して貰えず、再度送達先を設定して提訴予定です。

以上

判決文全文 文字起こし

下記pdfの内容を文字起こししました。

令和6年1月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 (望月)
令和3年(ワ) 第610号 解決金支払等請求事件
口頭弁論終結日 令和5年11月6日

判決

原告柴田 浩幸
同訴訟代理人弁護士田畑 淳
喜多 淳

東京都新宿区新宿二丁目5番12号 FORECAST新宿AVENUE 

被告株式会社ハタチエイゴ 
同代表者代表取締役澤木 陽太郎
同訴訟代理人弁護士杉浦 健二
山城 尚嵩
坂田 晃祐

主文

  1. 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和3年2月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
  2. 訴訟費用は被告の負担とする。
  3. この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

原告は、被告に対し、 令和元年10月30日に成立した合意に基づき、 被告が支払義務を負う解決金7000万円 (令和2年1月から毎月100万円ずつ、 70回払い)のうち、訴え提起時までに弁済期が到来した令和2年4月分から令和3年1月分までの1000万円及び各弁済期経過後の民法所定の遅延損害金の支払を求める。

 1 前提事実(証拠により認めた事実はその証拠を掲記した。)

(1) 当事者等

原告は、平成30年12月1日に被告の現代表者澤木陽太郎(澤木)が被告代表取締役に就任するまで、被告の代表取締役兼取締役に就任していた(甲1)。

被告は、英会話学校の経営、語学留学の仲介、あっせん業などを目的とする株式会社であり、平成25年5月14日に設立された。被告設立時、原告が、株式全部を保有し、代表取締役に就任した。

被告は、「souspeak.com」のドメイン(本ドメイン)にアクセスして表示されるウェブサイト「サウスピーク」(本件ウェブサイト)によって顧客の大半を集客し、フィリピン共和国セブ島にある語学学校サウスピークへの留学をあっせんしていた。同語学学校は、丸山要平(丸山)が最高責任者を務めるフィリピン法人が運営している。

本ドメインは、被告設立前の平成25年1月4日、原告個人の名義で取得したものである。

(2) 原被告間の紛争

原告は、被告の代表取締役兼取締役であったところ、平成30年9月、丸山との対立関係を背景に、代表取締役を辞任することは受容したものの、同時に取締役を辞任する意思はなかったが、被告により、平成30年12月1日付けで、代表取締役辞任とともに取締役辞任の登記がされた(甲16の1、 乙19)。

被告は、令和元年10月15日、 本ドメインにアクセスした際のアクセス先を「souspeak.jp」とするリダイレクト設定(本件リダイレクト設定1) を行った。 

原告は、同月16日、本ドメインにアクセスした際に、「はるじぇーブログ」という原告個人のブログを表示するようDNSサーバの設定を変更するリダイレクト設定(本件変更設定1)を行った。

(3) 原被告間の合意書の締結

ア 原合意

原告と被告は、令和元年10月30日、要旨、以下の内容を合意した(原合意(甲2))。

  • a 原告は、本ドメインのDNSサーバの設定を、令和元年10月31日限り、同月15日の設定状況に戻す手続を行う(第1条(1))。
  • b 原告は、令和元年11月7日限り、本ドメインの名義人を、原告から原告訴訟理人弁護士田畑淳(以下「原告訴訟代理人」とは同人を指す。)への移転手続を行うものとし、本ドメインの管理アカウント(ID、パスワード等)は、被告にて管理する(第1条(2))。
  • c 原告は、被告または被告が指定する第三者に対し、令和3年11月末日限り、原告が所有する被告の株式のすべてである450株を譲渡する(第1条(4))。
  • d 被告及び原告は、インターネット上で相手方を誹謗中傷、名誉棄損する投稿、 相手方に言及する投稿または相手方について推認させるすべての投稿を、令和元年10月末日限り、削除するものとする。また、被告及び原告は、第三者による同様の投稿について削除を求めるものとする (第1条(6))。
  • e 被告及び原告は、原告が平成30年12月1日付けで、被告の代表取締役及び取締役を辞任したことを確認する(第1条(7))。
  • f 被告は原告に対し、解決金として合計7000万円の支払義務があることを認め(本件解決金)、 令和2年1月末日から70回に分割して支払う(第2条1、2)。 リスト
  • g 原告訴訟代理人は、本件解決金がすべて支払われたときは、速やかに、本ドメインの名義を被告または被告の指定する第三者に移転する手続を行う(第3条)。
  • h 丸山は原告に対し、上記7000万円の債務を連帯保証する(第4条)。


 イ 改訂合意

原告と被告は、令和2年1月23日、原合意を踏まえ、要旨、以下の内容を合意した(改定合意(甲3)。原合意と一括して「本件合意」という。)。

  • a 原告は、被告に対し、改定合意書の作成に先立って、本ドメインを原告訴訟代理人名義に移転する手続を完了した旨を証する資料を提出し、本ドメインの管理アカウント情報 (ID、パスワード等)を被告に共有し、被告の管理する端末で二段階認証を設定する(第1条(1))。 
  • b 被告が原告に対して支払う7000万円の内訳を、原告が有する被告の株式450株の譲渡価格として612万8100円、原被告間の問題の解決金として6387万1900円とし、 令和2年1月末日限りに支払う100万円を被告の元従業員2名に対する解決金に充て、同年2月から令和7年10月までの各月末日限りに支払う100万円うち8万8813円を株式譲渡代金に、91万1187円を解決金に充当する(第1条(3))。
  • c 原告及び原告訴訟代理人は、本件解決金がすべて支払われたときは、速やかに、本ドメインの名義を被告または被告が指定する第三者に移転する手続を行う(第2条)。

(4) 本件合意後の本ドメインの設定状況等

ア 原告による本件合意の履行

原告は、本件合意に基づき、本件変更設定によるリダイレクト設定を解除し、令和元年11月18日、本ドメインの登録名義を原告から原告訴訟代理人に変更し、同月20日、本ドメインのIDとパスワードを被告と共有した。また、同月25日には二段階認証の設定を行い、被告に通知した(甲11ないし13)

イ 被告による再度のリダイレクト設定

被告は、令和2年5月5日、本ドメインにアクセスした際のアクセス先を「souspeak.jp」とするリダイレクト設定 (本件リダイレクト設定2) を再度行った。

ウ 原告による再度のリダイレクト設定

原告は、令和2年5月5日、前記イを知り、本ドメインのパスワードを変更し、同月8日、 本ドメインにアクセスした際に、 原告が経営する株式会社ハルヨンのウェブサイトを表示するようDNSサーバの設定を変更するリダイレクト設定を行った(本件変更設定2)。

エ 原告による本件合意内容の実現

① 本ドメイン

原告は、本件訴訟係属後の令和5年2月27日、前記ウの本件変更設定を解除するとともに、変更していたパスワードを被告に共有した (甲19)。 

② SNSアカウント

原告は、「サウスピーク在校生・卒業生」と称する Facebook グループ (本件SNSアカウント)の管理権限を保有していたところ、被告が、本件訴訟係属中の令和5年5月16日に、原告が本件SNSアカウントを引き渡さないことが本件合意に基づく原告の債務の未履行であると主張したことを受け、同年6月9日、被告に対し履行の提供を連絡し、同年9月5日までに履行した(甲36、39)。

(5) 被告による既払金

被告は、本件解決金として、令和2年2月28日に200万円、同年3月31日に100万円を支払ったが、その余の支払はしていない。

(6) 原被告間の別件訴訟

原告は、令和3年2月19日、本件訴え提起とともに、横浜地方裁判所に、澤木を相手方として、被告の取締役である同人が、原告作成名義の被告取締役辞任届及び被告臨時株主総会議事録を偽造したなどと主張して、不法行為に基づき、任期満了までの取締役報酬の一部である1000万円の損害などを請求する訴訟(同裁判所令和3年(ワ)第603号損害賠償請求事件。別件訴訟)を提起したところ、同裁判所は、令和4年12月26日、原告が取締役を辞任する意思を有していなかったことを認定したものの、被告の経営会議に参加していた全員が、代表取締役の辞任と取締役の辞任とを明確に区別していなかったことなどを挙げ、澤木のおかれていた当時の状況等を踏まえ、澤木が辞任届等の内容を是正したり原告の意思を確認したりすべき義務があったとは認められないとして、原告の請求を棄却し、令和5年1月11日に同判決が確定した(乙19、20)。

2 争点

(1) 同時履行の抗弁権

被告の主張

被告の本件解決金支払債務と本件合意上の原告の債務は同時履行の関係に立つところ、原告が負う債務の履行に代わる損害賠償債務も同時履行の関係に立つ。原告が負う合意書上の債務である本ドメインのDNSサーバ設定復元義務(原合意第1条(1))及び本ドメインの管理アカウント情報引渡義務(原合意第1条(2))の履行に代わる損害として後記(2)アの9053万7780円の損害賠償債務は被告の本件解決金支払債務と同時履行の関係に立つため、被告は同損害賠償債務の支払がされるまで本件解決金の支払を拒絶する。

被告が負う本件解決金債務と原告が負う本件合意上の債務が同時履行関係にないとしても、原告は債務履行に関して極めて不誠実な態度に終始しているから、被告は信義則上自己の債務の履行を拒絶できる(不完全履行の抗弁権)。

原告の主張

すべて争う。 

被告の本件解決金支払債務と本件合意上の原告の債務は同時履行の関係に立たない。本件合意において、本ドメインは、被告らが原告に本件解決金7000万円を支払ったときに原告代理人名義から被告または被告が指定する第三者に移転することとされ、本件解決金支払を促すための担保である。 

原告は、前記1(4)アに加え、被告代表者の刑事告訴について取下書の提出、被告との共同声明の発出など本件合意に基づく原告の債務をすべて履行している。それにもかかわらず、被告は、令和2年4月30日、 原告に対し、原告が「souspeak」の商標を出願していたことを確認したとして、出願を取り下げるまで本件解決金の支払を停止すると告げ、同年5月5日、本件リダイレクト設定2を行い、担保を毀損した。原告は本ドメインの担保価値を保全するため、やむを得ず同月8日に本件変更設定2を行ったにすぎない。 

(2) 相殺

被告の主張

原告の本ドメイン管理アカウント情報引渡債務の不履行は、令和2年5月から令和5年2月の34か月にわたるところ、被告は、原告に対し、下記ア①、②のとおり、同債務不履行に基づき、低下した本ドメイン価値相当額3053万7780円及び被告の逸失収入6000万円の合計9053万7780円の損害賠償請求権を有し、 また、同イのとおり、名誉棄損による100万円の損害賠償請求権を有する。 

被告は、令和5年4月19日、原告に対し、上記債権合計9153万7780円と原告が有する本件解決金支払請求権とを対等額で相殺するとの意思表示をした。

ア 債務不履行に基づく損害賠償請求権

① 低下した本ドメイン価値相当額

本ドメインの価値は、本件解決金7000万円から、 被告株式450株の譲渡価格612万8100円及び原告から被告の元従業員2名に支払うこととされた解決金100万円を控除した6287万1900円であるところ、1月あたりの換算額は、上記金額を本件解決金の分割払回数70で除した89万8170円である。原告が債務を履行しなかった34か月の間に低下した本ドメインの価値は、89万8170円に34を乗じた3053万7780円である。

② 被告に生じた逸失収入

原告は、本ドメイン提供債務の不履行が継続する間、被告と同一事業を行う株式会社バックワイズの常務取締役に就任しており、被告の潜在顧客はバックワイズ社に流出した。新型コロナウイルス感染症の影響により事業継続が困難になる前の被告の月間売上高は1200万円を下らなかったから、令和4年10月から令和5年2月まで少なくとも合計6000万円の売上を得られた。 

イ 名誉棄損による損害賠償請求権

原告は、別件訴訟において、澤木が、原告作成名義の被告取締役辞任届及び臨時株主総会議事録を偽造したなどと主張していたところ、原告が経営する株式会社ハルヨンのウェブサイトに、別件訴訟の判決内容について、澤木又は被告が、故意又は過失により原告の意思に反した辞任登記手続を行った事実が認定されたような記事を掲載し、澤木の社会的評価を低下させるとともに、被告の社会的評価を低下させた。名誉棄損による被告の損害額は100万円である。

原告の主張

争う。原告は、本件合意に基づく債務をいずれも履行しており、 債務の履行に代わる損害賠償義務を負わない。また、本ドメインを金銭評価してもわずかであるし、令和4年10月当時、被告は、新型コロナウイルス感染症の影響で事業を停止しており、逸失収入が発生する余地はない。

被告主張の名誉棄損行為について、原告は、別件訴訟の判決で認められた事実を伝えたにすぎず、かつ被告の社会的評価を低下させていない。

(3) 解除

被告の主張

被告は、原告が、本件SNSアカウントの管理権限引渡義務を履行せず、また、令和2年5月7日に自ら作成した誓約書に違反して被告及び被告代表者らへの名誉棄損を行っており、もはや本件合意に基づく債務の履行を原告に期待することは不可能であるとして、令和5年5月16日、原告に対し、民法542条1項3項に基づき本件合意を解除するとの意思表示をした。

原告の主張

争う。

第3 争点に対する判断

 1 認定事実

証拠(各記載のもの。枝番があるものは枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件合意成立に至る協議

令和元年10月30日、原被告間の紛争解決のため、原告、原告代理人である原告訴訟代理人ら、被告代理人である被告訴訟代理人弁護士杉浦健二(以下「被告訴訟代理人」とは同人を指す。)及び丸山が協議を行った。その結果、同日中に、①原告が、以後、被告取締役の地位を主張せず、被告の株式を手放し、被告及びその関連会社の経営から完全に外れること、②本ドメインを含む被告の営業に必要なスキームを被告が保有し、原告は干渉しないこと、③被告は原告に対し解決金7000万円を支払うことを解決方針の核とする合意が成立した。

上記解決金の金額について合意に至る経過は、まず、原告が、意図せず辞任登記された被告取締役の報酬月額100万円の残任期5年分として算定した6000万円に、ドメインとコンテンツの財産的価値2000万円を加算した合計8000万円を提案したところ、被告が6000万円の対案を出したが、原告が譲歩しても7000万円が限度であると述べ、被告が7000万円とすることに応じたものである。

上記協議中、原告及び原告訴訟代理人らは、本ドメインについて、被告が本件解決金の支払を分割払にする場合の担保として考えていることを被告代表者に対して繰り返し述べた(甲16)。

(2) 被告による本件解決金の支払停止等

原告は、令和元年9月6日にフィリピン法人サウスピークが用いる商標 「souspeak」を出願していた(商願2019ー118989。本件商標出願)。

被告訴訟代理人は、令和2年4月30日、原告訴訟代理人らに対し、本件商標出願を確認したとして、同事実を秘したまま合意書を締結した事実は合意の趣旨を覆しかねず、速やかに出願を取下げ、取下書の写しを提出するとともに、今後、被告関連法人の知的財産権その他の権利を侵害する行為または侵害するおそれのある行為に及ばないように原告本人に伝えるよう依頼するとともに、その結果を確認するまで本件解決金の支払を停止すると通告した。

原告は、令和2年5月5日、被告が本件リダイレクト設定2を行っていることに気付き、本ドメインのパスワードを変更し、同日中に、原告訴訟代理人から、被告訴訟代理人に対し、緊急避難として本ドメインのパスワードを一時的に変更したことを報告するとともに、原告において、丸山がコロナ禍で被告の事業をあきらめ、今後の解決金を支払わない意図を有することを疑っていると伝え、そうでないことが分かれば即時パスワードを共有すると連絡した。 

原告訴訟代理人は、令和2年5月6日、被告訴訟代理人に対し、本件商標出願については同月1日時点で税理士事務所に取下げを依頼している旨を報告するともに、確認先として税理士事務所の連絡先を教示した。本件商標出願は同月11日に受理されている。

原告訴訟代理人は、令和2年5月7日、被告訴訟代理人に対し、本件リダイレクト設定2を解除するよう改めてメールで依頼したが、被告訴訟代理人は、原告訴訟代理人に対し、原告が、今後、被告、フィリピン法人サウスピーク、語学学校サウスピークの株主、従業員及び役員について誹謗中傷しない旨等の誓約書を作成し郵送すること、本ドメインのパスワードを元に戻すべきことなどを伝えた。

原告訴訟代理人が、令和2年5月8日、被告訴訟代理人に対し、被告が本件リダイレクト設定2を解除する意向があるか否か問い合わせたところ、被告訴訟代理人としては本件リダイレクト設定2を解除するようにとの意見を被告にすでに伝えている等と回答したことを受け、 原告は、同日、本件変更設定を行った(甲14、18、20ないし31、乙7)。

(3) 被告の事業停止 

新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年3月16日以降、フィリピン法人サウスピークによる語学学校の経営は停止しており、それに伴い、被告による留学あっせん事業も停止した。被告の売上はなくなり、令和4年9月時点においても、被告の売上はゼロに近く、従業員は澤木一人であり、事業再開の見通しは厳しい状況にある(甲35の20頁)。

2 争点(1)について 

(1) 同時履行の抗弁権

被告は、本件合意に基づく原告の本ドメインのDNSサーバ設定復元義務(原合意第1条(1))及び管理アカウント情報引渡義務 (原合意第1条(2))と被告の本件解決金支払義務とが同時履行の関係にあることを前提に、 原告が負う損害賠償債務と被告の本件解決金支払債務とが同時履行の関係にあると主張する。

しかし、原合意では、本ドメインに関する原告のDNSサーバ設定復元義務の履行期は令和元年10月31日限り(原合意書第1条(1))、管理アカウント情報引渡義務の履行期は同年11月7日限り(原合意書第1条(2))とされていたところ、改定合意により、改定合意書作成前に履行することとされ(改定合意書第1条(1))、原告は、前記第2の1(4)アのとおり、原告が負う債務を本件合意どおり履行した。本ドメインに関する原告の債務は、被告の本件解決金支払より先に履行することとされていたものであり、両債務が対価的相互依存の関係にはないことが明らかである。

もっとも、原告は、同ウのとおり、令和2年5月8日、再度リダイレクト設定を行い(本件変更設定2)、これにより、本件合意に基づく義務を履行する以前の状態に至ったのであるが、その間、被告は同年4月末日に弁済期が到来した本件解決金を支わず、被告による明らかな債務不履行が先行しており、かつ、被告は本件リダイレクト設定2を行い、原告が保有する担保価値を即時に毀損しかねない措置をとっている。原告は、本件合意に至る協議中、本ドメインについて、被告が本件解決金の支払を分割払にする場合の担保として考えていることを明言しており(前記1(1))、協議当時、被告にとっても、本ドメインを用いた集客を維持することが喫緊の課題であった一方で、原告としても、本件解決金の支払が完了するまでは、本ドメインの管理権限を完全に被告に移譲する意図はなく、本件合意においてその旨を明示的に合意している(原合意書第3条、改定合意書第2条)。原告による本件変更設定2は、被告の本件リダイレクト設定2による本ドメインの担保価値の毀損が差し迫った状況にあって、担保価値を保全するために行ったものであり、被告の先行行為に対する防御手段として相当性を欠くものであったとはいえない。

なお、本件解決金の支払に関し、被告は、令和2年4月30日、被告訴訟代理人を通じ原告に対し、本件商標登録を確認したことを端緒に同日の支払を停止する旨伝えているところ(前記1(2)) 原告が、令和元年9月6日に商標を出願していたにもかかわらず本件合意に至る協議に際して同事実を述べなかったことについて、背信的意図を疑うこと自体はやむを得ないとしても、同出願により直ちに原告の企業価値が毀損されるものではなく、かつ、令和2年4月当時、被告は事業を停止しており、そのような状況下で、原告が出願した商標の審査状況、利用状況等を確認しないまま、当日期限の解決金支払を一方的に停止することに相応する事情であるとは認めがたい。原告は、被告から連絡を受けた後、ゴールデンウイークの連休中であるにもかかわらず、直ちに本件商標出願を取り下げる手続を進め、原告訴訟代理人を通じ被告に報告しており、本件商標登録を理由に被告が本件解決金の支払を停止するのみならず、本件リダイレクト設定2を行い、継続することがやむを得なかったとは認められない。

また、被告は、原告が、令和2年3月ころ、フィリピン法人サウスピークが運営する語学学校への入学希望者に対し、 澤木について刑事告訴を行ったこと及び今後も同人に対する刑事捜査が継続する可能性がある旨を伝えたこと(乙5、6)が、本件合意(原合意書第1条(6))に違反するとも主張する。しかし、本件合意に基づく債務は本件合意時に存在する投稿を削除することであり、原告の上記行為が当然に本件合意違反になるものではない。もとより、本件合意により実現しようとしていた平穏な関係を害するものではあるが、本件合意に基づき(原合意書第5条、甲2) 誠実に協議することによって解決されるべきことがらである。

以上によれば、被告において、被告の債務である本件解決金の支払を停止し、かつ原告が保有する担保価値を毀損する行為である本件リダイレクト設定2を継続することを相当とするだけの事情があったとは認められない。なお、被告は、本件訴訟において、令和2年5月8日に本件リダイレクト設定2を解除していたと主張し、被告訴訟代理人を通じて原告に対し同月19日にその旨を報告したと主張するものの、同月8日に解除した事実を認めるに足りる的確な客観的証拠はない。仮に解除していたとしても、同月13日に、原告訴訟代理人が被告訴訟代理人に対し、本件リダイレクト設定2を解除していることを確認できる資料の提示を求めたのに対し、客観性の担保に協力しようとしないまま、原告に対し本ドメインのパスワードを共有するよう求めており(甲32ないし34、乙21)原告において、被告が本件リダイレクト設定2を解除したことを前提に行動するべきであったとはいえない。

したがって、被告の解決金支払義務に関し、原告による本件変更設定2は、被告の先行行為に対する防御手段として相当性を欠くとはいえず、被告の上記解決金支払義務と原告が再び本件合意内容を実現することとの間に履行上の牽連関係を認めることが公平の理念に沿うとは認められない。 

よって、被告主張の損害賠償請求権が、同時履行の抗弁権を主張しうる填補賠償請求権にあたるか否かを判断するまでもなく、被告の同時履行の抗弁権の主張は理由がない。

(2) 不完全履行の抗弁権 

被告は、原告が本件合意に基づく債務の履行に関して極めて不誠実な態度に終始していると主張するが、前記(1)のとおり、原告の態度が不誠実なものに終始していたとはいえず、信義則を根拠とする履行拒絶の権利を被告が有するとは認められない。

3 争点(2)について

(1) 債務不履行に基づく損害賠償請求権

被告は、原告が、令和2年5月から令和5年2月までの34か月間、本ドメイン管理アカウント情報引渡債務を履行しなかったと主張する。

しかし、前記2(1)のとおり、原告は、本件合意に基づく債務を履行したと認められる。その後、原告は、令和2年5月8日に再度本件変更設定を行い、本件合意に基づく義務を履行する以前の状態に至らしめているが、それは、被告による解決金支払債務の不履行及び本ドメインの価値を毀損する行為である本件リダイレクト設定2に対する防御手段として行われたものである。被告による本件リダイレクト設定2の継続に正当性を見いだしがたいことは前記のとおりであり、仮に原告が本件合意に基づき合意内容を継続する義務を負うとしても、原告の責めに帰すべき事由によって債務を履行しなかったものとは認められず、被告に対し損害賠償責任を負うとは認められない。

(2) 名誉棄損による損害賠償請求権

被告は、原告が掲載したウェブサイト上の別件訴訟に関する記事中に、澤木又は被告が、故意又は過失により原告の意思に反した辞任登記手続を行ったことが判決で認定されたような記載を行ったと主張するところ、該当記事中、客観的事実に反する記述は見当たらない(乙26)。たしかに、別件訴訟の判決の骨子である原告作成名義の被告取締役辞任届等を澤木が偽造したとはいえないとの認定判断や、辞任登記に関し澤木の注意義務違反は認められないとの判断に関する記述はないものの、当該記事は、澤木が全面勝訴した旨の記事に対する反論であることを明示しており、反論としての当該記事に、澤木が代表取締役を務める被告の社会的評価を低下させる内容の適示があるとは認められない。

(3) まとめ

よって、被告が主張する債務不履行に基づく損害賠償請求権及び名誉棄損による損害賠償請求権は認められず、これらを自働債権とする被告の相殺の主張は理由がない。

4 争点(3)について

被告は、民法542条1項3号に基づく解除を主張するが、本件合意には平成29年法律第44号による改正前の民法が適用され、同号の適用はない。

被告は、無催告解除の理由として、本件SNSアカウントの管理権限引渡義務の不履行を挙げるが、原告は令和5年9月13日までに同アカウントの管理権限引渡の履行を提供しており、履行不能であるとは認められない。また、被告は、原告が被告及び被告代表者らへの名誉棄損を行っていることを挙げるが、 本件合意において明示された原告の債務の不履行であるとは認められない。被告が主張する事情が、本件合意に基づく原告の債務の履行の全部または一部が不能となったことを基礎づけるとは認められず、同改正前民法543条に照らし、被告による無催告解除が有効であるとは認められない。

第4 結論

よって、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

横浜地方裁判所第4民事部
裁判官 松川まゆみ

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この記事を書いた人

はるじぇー (株)ハルヨン 代表取締役

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