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ソフトウェアだけがAIじゃない!注目すべきAIチップの動向

GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)やマイクロソフトといったプラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業は、ビッグデータやそれを駆動するAI、クラウドサービスに力を入れてきました。ところが近年、AIチップに代表されるハードウェアにも力を入れています。

なぜAIチップが注目されているのでしょうか。AIチップとは何かやその用途、現状や課題について説明していきます。

AIチップとは何か?

AIチップとは、AI処理に特化した半導体を指します。複数の半導体から成り立つコンピューターは、プログラムさえ与えればさまざまな計算の実行が可能です。これはAI処理にも当てはまります。それでもなおAI処理専用のチップが必要とされる理由は存在します。

AIと切り離せないビッグデータ

人工知能(AI)のなかでとくに注目されているのは、ディープラーニング(深層学習)に代表される機械学習です。ディープラーニングは、ビッグデータを学習し最適な回答を導くことが可能です。

ディープラーニングの登場により、画像認識や言語認識といったパターン認識だけでなく、ボードゲームの手を推論する等の意思決定など、幅広い応用が可能になりました。作業を限定すれば、人間よりもAIのほうが高パフォーマンスをはじき出すことが徐々に明らかになってきたのです。

ディープラーニングがうまく機能するかどうかは、ビッグデータ次第です。Googleが開発した囲碁のプログラムAlpha Goのように、自らデータを作り出す「強化学習」等の機械学習も損座します。しかし多くの場合において、ビッグデータをもとに回答を導く機械学習がAIの中心です。

囲碁の棋譜のようにビッグデータが顕在化している場合には、ディープラーニングは活用しやすいでしょう。ただ多くの場合においてビッグデータは潜在化しているので、センサー等を用いてビッグデータを「見える化」する必要があります。カメラの場合、イメージセンサーから収集された外界の3次元情報は2次元の画像データへと変換されます。このようなデータがあってこそ、防犯用などさまざまなシーンにAIは応用可能です。

AIチップが必要なハードウェア

ビッグデータを処理するのにAIが必要ですが、問題はどこでAI処理するかです。自動運転を事例に考えてみましょう。

クルマに搭載されたセンサーから外界の情報を取得し、AIが障害物や対抗車があるかなどを判断します。この判断に基づき、クルマの経路が推論されます。このAI処理を実行するコンピューターとして3つの候補があります。

・車載コンピューター

・遠隔に設置されたクラウドコンピューター

・クルマに近い場所に設置されたエッジコンピューター

車載コンピューターは、ネットワークを経由しなくても、車の中だけでAI処理できるシステムです。またGoogleやAmazon、マイクロソフトなどが提供するAIサービスは、端末からクラウドコンピューターにアクセスすることで利用できます。クルマに搭載されたセンサーから収集されたデータをクラウドに送信し、それでAI処理した結果を再びクルマへと送り返すことで、自動運転が可能になります。

AI処理を車載コンピューターで実行する場合には、高性能なGPU(画像処理装置)が必要になります。他方クラウドコンピューターの場合、高性能なサーバーさえあれば端末が高性能な処理装置を搭載しなくてもいいというメリットが存在します。

その一方で、クルマから遠隔地に処理用コンピューターが存在するため、自動運転などのリアルタイムでの反応が必要なケースでタイムラグが生じる可能性があります。とりわけ自動運転においては、歩行者の飛び出しや対向車のアクシデントに遭遇した際の咄嗟の判断が必要とされます。そのため、クルマに近いコンピューターでの処理が必要になります。このような車載コンピューターやクラウドコンピューターのデメリットを解消するのが、エッジコンピューターです。エッジコンピューターでAI処理することで、リアルタイムに近い処理が可能になります。

このようにクラウドコンピューター、エッジコンピューター、端末と三者三様で、AIチップは必要とされるのです。

AIチップの用途

AIチップの用途として、上記で説明した自動運転が挙げられます。この場合、車載コンピューターやエッジコンピューターに使用されます。

クラウドコンピューターの場合、AIチップは用途にかかわらず必要になりますので、エッジコンピューターと端末のそれぞれで説明します。

エッジコンピューターでのAIチップの用途

エッジコンピューターが必要とされるのは、自動運転以外だと、工場におけるAI処理が考えられます。これは、ドイツが提唱したインダストリー4.0とも関連があります。

工場をネットワーク化した「スマートファクトリー」で、設備に搭載されたセンサーからデータを収集し、マスカスタマイゼーション(カスタム製品の大量生産化)等の生産性向上に役立てようとするのが、インダストリー4.0の骨子です。

センサーによって見える化したビッグデータは、知能ロボットの操作や効率的なプロセス処理等に活用されます。大量生産を実現するためには、不測の事態でも現場で対応することが要求されるため、タイムラグのあるクラウドコンピューターでの処理は望ましくありません。そこで、工場等の現場に設置されたエッジコンピューターでの処理が必要になります。これらエッジコンピューターにAIチップが必要で、インダストリー4.0のカギを握るのがAIチップといっても過言ではありません。

端末でのAIチップの用途

AIチップはわれわれの身近なモノにも搭載されています。

それがスマートフォンなどの携帯端末です。AndroidやiOSを搭載したスマートフォンには多くのアプリが用意されています。これらのアプリのなかにはAIを活用したものも多く存在します。多くの場合、AI処理はAmazonやGoogle、マイクロソフトが用意したクラウドコンピューターやAPI等を活用しますが、場合によっては端末でのAI処理が求められます。

たとえば、スマートフォンに搭載されたカメラ。イメージセンサーが収集したデータから作られた生の画像は、レンズによる歪みや色使いなど最善の状態ではありません。そこで生の画像データが写真として美しい状態になるよう処理されます。このような処理は、端末に搭載されたAIチップによって行なわれます。

従来、ビッグデータを処理するディープラーニングを稼働させるためには、クラウドコンピューターのような大規模な計算機が必要でした。しかしながら、エッジコンピューターや端末など、われわれに近い場所でAI処理する必要性が高まっています。

AIチップの現状

画像処理から出発したAIチップ

先述のように、AI処理には画像認識や音声認識から意思決定までさまざまな応用が可能です。このような汎用的な処理できるAIチップが初めから存在したのではありません。車載コンピューターに搭載されるGPUにAIを処理する機能を付け加えたのが、AIチップの始まりです。AIチップに取り組む企業

グラフィックボードなどのGPUの開発を手掛けるNVIDIAは、AIチップに初期の段階から着手していた企業です。画像処理を高速で実行可能なGPUは、CPUのような汎用処理も実行できます。自動運転には画像処理が不可欠で、NVIDIAはAI処理機能を搭載したGPU「DRIVE PX」を開発しました。自動運転でトヨタ自動車とも連携し、NVIDIAはAIチップを手掛けるメーカーとして先頭に立っています。

AIチップに取り組む企業

しかしながら、GPUはあくまで画像処理用のAIチップであって、AI処理専用のチップではありません。エッジコンピューターやサーバーコンピューター用のAIチップが必要になっています。AmazonやGoogle、マイクロソフトといった巨大IT企業は、汎用的なAIチップの開発に乗り出しています。工場をもたなくとも半導体産業に参入できること、満足のいくAIチップが存在しない等がその理由です。

長年モノづくりに力を入れる日本もAIチップの開発を手掛けています。IoTソリューションを提供する富士通からディープラーニングに強みを発揮するスタートアップ企業であるプリファードネットワークス(PFN)まで、参入企業は広範に及んでいます。とくにPFNはエッジコンピューターにいち早く注目していました。自動運転やスマートファクトリーに欠かせないエッジコンピューター。もともとディープラーニング用のフレームワークであるChainerをGoogleのTensorflowに先駆けて公開する技術力の高い集団だけに、PFNのAIチップへの参入に期待が集まります。

AIチップの課題

消費電力

AIチップの課題は、その「電力消費量」です。

ディープラーニングはビッグデータを処理するために、大量の計算が必要です。そのため、消費電力もバカになりません。データセンターをもつGoogleが、自社サーバーの電力を効率化するためにAIを活用したことは記憶に新しいでしょう。電力効率化の問題も懸案で、スマートグリッドなどに欧米などが取り組んでいる最中です。どの企業もAIチップの電力消費量を減らすことを目指していますが、電力消費量が少ないといわれるPFNのAIチップでも、最適化されているとはいえない状況です。

多様化するAIチップ

またAIチップも多様化しています。AIチップには、学習用と推論用の2種類が存在します。AIチップで先行するNVIDIAの「DRIVE PX」は学習と推論の両方をGPUで行ないます。学習用のAIチップに関してはGPUで標準化されつつありますが、推論用のAIチップはGPU以外にもSoCやFPGA、ASICでも実現可能で、標準化にむけて各企業がしのぎを削っています。学習用と推論用とではスペックも異なり、用途もクラウドとエッジ等の近い端末に分かれるなど、AIチップも細分化されています。

主導権争いが熾烈なAIチップ業界

プラットフォーマーと呼ばれるIT企業は、ムーアの法則の終焉から、ソフトウェア技術の向上のために、ディープラーニング等のAIに力を注ぎました。しかしながらAIのソフトウェア面が確立されたものの、肝心のAIを処理するチップが満足いかないため、プラットフォーマーがAIチップの開発にまで手を出している状況です。

GoogleやIntelなどがNVIDIAをこの分野でキャッチアップしようと努力していますが、まだ満足のいくAIチップの完成には至っていません。半導体産業は工場をもたないファブレスでも参入できるので、PFNなどのソフトウェア企業もAIチップを手掛けることも可能です。日本でも経済産業省が「AIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業」にて、予算を100億円要求するなどAIチップの支援に乗り出すなど、日本の動向にも注目です。

<参考資料>

 人工知能はどうやって「学ぶ」のか――教師あり学習、教師なし学習、強化学習

AI半導体の王者・NVIDIAを襲うインテル、AMD、グーグル包囲網 ── それでもNVIDIAが強い理由

[5分で理解]GPUとは?CPUと違いや性能と活用

AIチップ総論:NVIDIAが先行、グーグル・インテル・中国勢が追従、日本の勝機は?

新時代を切り開くAIチップの本命は?

AI、ソフト開発競争から半導体チップ開発競争の時代へ移行…日本勢の発展を阻む障害

「NVIDIAの牙城に挑むAI半導体」(『Nikkei Automotive』2018年1月号)

「トヨタがNVIDIAと提携 自動運転、脱日本連合へ」(『Nikkei Automotive』2017年7月号)

「PFNがAI専用ハード開発 8.5cm角の深層学習用チップ」(『Nikkei Elecctronics』2019年2月号)

「Amazonがディープラーニング強化学習のロボ投入 機械学習を基盤にクラウドからエッジへ」(『Nikkei Robitics』2019年2月号)

「「AIチップ」を搭載するスマートフォンが登場」(『InfoCom T&S World Trend Report』2017年12月号)

「エッジ用AIチップの種類と特徴」(『映像情報Industrial』2018年12月号)

「AI現場導入時の留意点と適応ソリューション」(『計装』2019年2月号)

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